令和8年9月1日から、生活道路における自動車の法定速度が変わります。
ニュースなどでも広く取り上げられていますので、ご存じの方も多いと思いますが、これまで標識などによる速度指定がなかった一般道路では原則60km/hだった法定速度が、生活道路では30km/hとなります。
具体的には、中央線や車両通行帯などが設けられていない一般道路が対象です。
政府広報などでは「主に道幅5.5m未満の生活道路」と説明されていますが、法律上、単純に道路幅が5.5m未満かどうかだけで決まるわけではありません。中央線等の有無など、道路の構造によって判断することになります。
また、40km/hなどの最高速度が道路標識・道路標示によって指定されている場合には、その指定された速度が最高速度になります。
昔、教習指導員をしていた頃に教えていたこと
私は行政書士になる前、教習指導員をしていた時期があります。
当時、教習生の方と道路を走りながらよく話していたのが、
「制限速度と、安全に走れる速度は必ずしも同じではない」
ということでした。
例えば制限速度が40km/hだからといって、いつでも40km/hで走ればよいわけではありません。
住宅街で子どもが歩いている。
見通しの悪い交差点がある。
道路が狭い。
雨が降っている。
路上に駐車車両がある。
こうした状況なら、当然もっと速度を落とす必要があります。
道路交通法第70条にも、運転者は道路、交通、車両の状況に応じて、他人に危害を及ぼさないような「速度と方法」で運転しなければならないという安全運転義務が定められています。
ですから30km/hという数字も、「30km/hまで出さなければならない速度」ではありません。
あくまで最高速度です。
状況によっては20km/h、あるいはそれ以下で走ることが必要な道路もあります。
そう考えると、今回、生活道路の法定速度そのものが30km/hに引き下げられたことは、実際の道路環境に合った分かりやすい改正ではないかと思います。
「5.5m未満」という数字を見て、道路の「4m」を思い出しました
今回の改正について「主に幅員5.5m未満の道路」という説明を見たとき、仕事柄、別の数字が頭に浮かびました。
「4m」です。
私は宅地建物取引士でもありますので、道路幅員というと、まず建築基準法上の道路を思い浮かべます。
建築基準法第42条では、原則として幅員4m以上の道路が建築基準法上の「道路」とされ、さらに第43条では、建築物の敷地は原則として道路に2m以上接していなければならないという、いわゆる接道義務が定められています。
もちろん、4m未満でも建築基準法第42条第2項の道路、いわゆる「2項道路」として扱われる場合などがありますので、「4m未満なら道路ではない」という単純な話ではありません。
それでも、不動産や建築を扱う場面では、「道路の幅」というのは非常に重要な数字です。
車庫証明でも「道路の幅」は気になるところです
そして行政書士として車庫証明を扱っていると、やはり道路幅は気になります。
ただし、ここも少し注意が必要です。
車庫証明について、
「前面道路が4m未満なら車庫証明が取れない」
という法律上の決まりがあるわけではありません。
車庫証明における保管場所の主な要件は、
- 使用の本拠から保管場所まで直線で2km以内であること
- 道路以外の場所であること
- 自動車を全体として収容できること
- 保管場所を使用する権原があること
- 通行できる道路から自動車を支障なく出入りさせることができること
などです。
千葉県警察も、保管場所について「通行することができない道路以外の道路から、支障なく出入りさせ、かつ、自動車の全体を収容できること」と案内しています。
つまり重要なのは、単純な「4m」という数字ではなく、
その道路から、その車を本当に支障なく車庫へ出し入れできるのか
ということです。
道路が狭ければ、車庫の間口が十分にあっても、一度では曲がれないことがあります。
反対側に塀や電柱があれば、さらに出入りは難しくなります。
最近は車そのものも大型化していますので、図面上では余裕があるように見えても、実際の現地を見るとかなり厳しいケースがあります。
車庫証明の仕事で所在図・配置図を見たり、実際の道路や駐車場所を確認したりしていると、「道路幅」という数字が生活とかなり密接につながっていることを感じます。
狭い道路は、車だけの場所ではありません
今回30km/hとなる生活道路の多くは、住宅の玄関や駐車場が直接道路に面しています。
そこで生活している方が歩き、子どもが自転車に乗り、高齢の方が道路を横断し、家の駐車場から車が出てきます。
幹線道路とは道路の役割そのものが違います。
また、狭い道路に車を駐車すれば、それだけ通行可能な幅も小さくなります。
道路交通法第45条では、原則として、駐車した車両の右側に3.5m以上の余地が残らない場所での駐車も禁止されています。
こうして考えてみると、
「生活道路は30km/h」
という今回の改正は、単にスピード違反の基準が変わるという話だけではないように思います。
道路は車だけが走る場所ではなく、そこで暮らしている人の生活空間でもあります。
30km/hは「安全な速度」ではなく「上限の速度」
教習指導員だった頃から、今でも変わらないと思っていることがあります。
安全運転は、標識の数字だけを見て行うものではありません。
30km/h規制になったから30km/hで走れば安全、ということでもありません。
狭い道路ならもっとゆっくり走る。
見えない場所から人が出てくるかもしれないと考える。
駐車車両があれば、その陰まで考える。
法令を守ることはもちろん大切ですが、その先にある「なぜこのルールがあるのか」を考えることも大切だと思います。
9月1日から始まる生活道路の30km/hという新しいルール。
行政書士として車庫証明を扱い、宅地建物取引士として道路を見る現在の立場から改めて考えてみると、昔、教習所で教習生の方々と一緒に考えていた「状況に合わせた安全な速度」という、ごく基本的なところに戻ってくるような気がします。
生活道路では、標識だけではなく道路そのものをよく見る。
明日からの法改正を機に、私自身も改めて心掛けたいと思います。
参考
- 道路交通法施行令第11条(最高速度)
- 道路交通法第70条(安全運転の義務)
- 道路交通法第45条(駐車を禁止する場所)
- 建築基準法第42条(道路の定義)
- 建築基準法第43条(敷地等と道路との関係)
- 自動車の保管場所の確保等に関する法律
- 警察庁「生活道路における自動車の法定速度が引き下げられます」



