暑さの厳しい一日が終わり、夜になってようやく少し落ち着いた空気を感じられるようになりました。
夜になってから、一般財団法人建設業情報管理センター、いわゆるCIICが主催する「税理士・会計士から学ぶ 決算書の見方・分析の仕方(基本編)」というセミナーアーカイブを受講しました。
公認会計士・税理士の先生から、貸借対照表や損益計算書の基本的な見方、財務分析の考え方などを学ぶ内容です。日頃は建設業許可や経営事項審査の手続きの中で財務諸表に触れている私にとっても、あらためて考えさせられることの多い研修でした。
簿記を勉強していても、建設業会計では少し戸惑う
私は日商簿記2級を勉強した経験があります。
そのため、行政書士として初めて建設業の財務諸表を作成したときも、貸借対照表や損益計算書の基本的な構造自体は理解できました。
それでも、実際の建設業許可業務で財務諸表を作り始めると、
「簿記で覚えた科目と名前が違う」
「この売上は完成工事高でよいのだろうか」
「こちらは兼業事業として分けるべきだろうか」
と、最初は何度も立ち止まったことを覚えています。
建設業会計では、一般的な会計用語とは異なる名称が使われます。
| 一般的な会計上の表現 | 建設業会計での主な表現 |
|---|---|
| 工事による売上高 | 完成工事高 |
| 工事による売上原価 | 完成工事原価 |
| 完成した工事代金の未収額 | 完成工事未収入金 |
| 工事に関する未払額 | 工事未払金 |
| 工事による売上総利益 | 完成工事総利益 |
ただし、単純に科目名を機械的に置き換えればよいわけではありません。
たとえば「売掛金」のすべてが完成工事未収入金になるわけではなく、工事以外の販売による売掛金であれば、別に考える必要があります。取引の内容を確認し、建設工事に関するものか、それ以外の事業に関するものかを判断しなければなりません。
ここが、単なる数字の転記では済まないところです。
完成工事高と兼業事業売上高を分ける
建設会社が行っている事業は、必ずしも建設工事だけとは限りません。
工事契約とは別に資材を販売していたり、不動産賃貸業や製造業などを行っていたりする会社もあります。
このような場合、建設工事による売上は「完成工事高」、建設工事以外の事業による売上は「兼業事業売上高」として区分します。建設業法上の財務諸表にも、完成工事高、完成工事原価、兼業事業売上高、兼業事業売上原価を分けて記載する様式が設けられています。
実務では、決算書に記載されている売上高の数字だけを見ても、この区分が分からないことがあります。
その場合には、会社の事業内容、総勘定元帳、売上台帳、請求書、工事経歴書などを確認しながら、
「この売上は工事の請負によるものか」
「工事とは別に販売した商品の売上か」
と、一つずつ整理していきます。
経営事項審査では、工事種類別の年間平均完成工事高が評価項目の一つとなります。したがって、完成工事高を正しく区分することは、単に書類の体裁を整えるという話ではなく、会社の評価にも関係してきます。
日頃は「作る側」、今日は「読む側」
建設業許可の決算変更届や経営事項審査では、会社の決算書や確定申告書類をもとに、建設業法で定められた財務諸表へ数字を組み替えていきます。
許可を取得した建設業者は、毎事業年度終了後、定められた期間内に工事経歴書や財務諸表などを提出する必要があります。
そのため、日頃の私は、どちらかといえば決算書を「作る側」「整える側」として見ています。
一方、今回の研修では、決算書を利用する人が、どのような目的で数字を見ているのかが説明されました。
金融機関であれば、貸したお金を返してもらえるか。
投資家であれば、投資した金額以上の利益を生み出してくれるか。
取引先であれば、工事代金や売掛金をきちんと支払ってもらえるか。
同じ決算書でも、立場によって注目する場所が異なります。
作成した決算書に誤りがないかを確認する経理担当者と、会社の収益性や将来性を判断する金融機関では、当然ながら数字を見る角度も違います。
この「読む側の視点」は、今回の研修で特に印象に残ったところでした。
帳簿上の金額と、現在の価値は同じとは限らない
貸借対照表を見るときに注意したいものの一つが、土地や建物などの固定資産です。
建物や車両、備品などは、減価償却によって毎期少しずつ帳簿上の金額が減っていきます。
一方、土地は原則として減価償却されません。何十年も前に購入した土地であっても、基本的には当時の取得価額をもとに帳簿へ記載され続けます。
そのため、帳簿に記載された金額と、現在その土地を売却した場合の価格が、大きく異なることがあります。
研修では、土地を150万円で取得し、その金額が帳簿に残っていても、現在の価値が75万円程度まで下がっていれば、帳簿上は資産超過に見える会社が、時価で考えると実質的な債務超過になる可能性がある、という例が示されました。
会社が所有する不動産の所在地が分かれば、登記事項証明書から土地の面積、所有者、抵当権などの権利関係を確認できます。
また、国税庁が公表している路線価も、土地の価値を考える際の一つの参考資料になります。
ただし、路線価は相続税や贈与税の評価に用いるための基準です。実際の取引価格そのものではなく、土地の形状、接道状況、利用上の制限などによっても評価は変わります。したがって、「面積に路線価を掛ければ時価が確定する」というものではなく、あくまで概算や分析の出発点として扱うべきものです。
決算書の数字だけを見るのではなく、その数字が何を表し、現在の実態とどの程度一致しているのかを考える必要があります。
費用をどこに表示するかで、本業の見え方が変わる
今回の研修では、損益計算書における「利益の段階表示」についての演習もありました。
損益計算書には、主に次のような利益が表示されます。
- 完成工事総利益
- 営業利益
- 経常利益
- 税引前当期純利益
- 当期純利益
このうち、営業利益は本業によって生み出した利益です。
経常利益は、営業利益に受取利息や支払利息などの営業外損益を加減した、会社の経常的な活動による利益です。
研修の演習では、前例のないサイバー攻撃により20億円の対応費用が発生し、その費用を誤って販売費及び一般管理費に計上した事例が取り上げられました。
演習上、この20億円を特別損失へ振り替えると、税引前当期純利益と当期純利益は変わりません。しかし、営業利益は10億円の赤字から10億円の黒字へ変わります。
最終的な損失額は同じでも、
「本業そのものが赤字なのか」
「本業は黒字だが、一時的な特殊事情で赤字になったのか」
では、決算書を読む人が受ける印象は大きく異なります。
もちろん、現実の会計処理で自由に区分を変えてよいわけではありません。取引の実態や適用される会計基準に従い、正しく処理することが前提です。
そのうえで、損益計算書のどの段階に数字が表示されているかを見ることで、その会社の本業の状態を、より正確に読み取れるということです。
一つの数字だけで会社を判断しない
研修の後半では、財務分析の基本的な指標として、流動比率や自己資本比率などが紹介されました。
流動比率は、1年以内に支払う必要がある流動負債に対して、1年以内に現金化される流動資産がどの程度あるかを見る指標です。
自己資本比率は、会社が調達している資金のうち、返済する必要のない自己資本がどの程度を占めているかを見る指標です。
研修資料では、CIICが公表した「建設業の経営分析」の上位25%の水準として、
- 流動比率 556.48%
- 自己資本比率 73.60%
という数字が示されていました。
もっとも、この数字だけを目標にすればよいというものではありません。
建設会社は、元請け中心か下請け中心か、材料を自社で仕入れるのか、設備を保有するのか、外注を多く利用するのかによって、適正な財務構成も変わります。
大切なのは、同業他社の水準と比較することに加えて、自社の数字が数年間でどのように変化しているかを見ることです。
前年より利益率が下がったのであれば、完成工事高が減ったのか、材料費や外注費が増えたのか、あるいは人件費や設備投資が増えたのか。
数字の増減には、必ず何らかの理由があります。
「作る側」だからこそ、「読む側」の目も持っていたい
建設業許可の財務諸表を作成する仕事は、決算書の数字を別の用紙へ移すだけの作業ではありません。
完成工事高と兼業事業売上高を分け、工事原価と一般管理費を確認し、会社の決算内容を建設業法の様式に合わせて整理していきます。
その財務諸表は、建設業許可の届出だけでなく、経営事項審査、公共工事の入札、金融機関の融資判断、取引先の与信判断などにもつながっていきます。
今回の研修を通じて、日頃「作る側」として見ている決算書を、「読む側」はどのように見ているのかを学ぶことができました。
行政書士になりたての頃、建設業許可について多くの資料を読み、分からないことを一つずつ調べていた時期を思い出します。
制度や様式を覚えることも大切ですが、その書類が何のために作られ、誰がどのように利用するのかまで考えることで、ようやく実務への理解が深まるのだと思います。
暑い日が続きますが、これからも日々の業務と研修を重ねながら、建設業者の皆様に、できるだけ分かりやすく正確な説明ができるよう努めてまいります。
市原市周辺における建設業許可、決算変更届、経営事項審査、入札参加資格申請については、高橋行政書士事務所までご相談ください。
よくあるご質問
建設業の財務諸表は、通常の決算書と違うのでしょうか
基本となる数字は、会社が作成した決算書や確定申告書類と同じです。ただし、完成工事高、完成工事原価、完成工事未収入金など、建設業法で定められた科目と様式に組み替える必要があります。
完成工事高とは何ですか
請け負った建設工事のうち、完成した工事による売上高です。経営事項審査では、工事種類別の年間平均完成工事高が評価項目の一つとなります。
建設工事以外の売上はどうなりますか
工事契約とは別に行った資材販売、不動産賃貸、製造などの売上は、取引の内容に応じて「兼業事業売上高」として区分します。完成工事高と兼業事業売上高を正しく分けることが重要です。
決算変更届や経営事項審査を行政書士に依頼できますか
建設業許可の新規申請・更新申請、毎事業年度の決算変更届、経営事項審査、入札参加資格申請などについて、行政書士へ相談することができます。


