行政書士になったばかりの頃、私が特に時間をかけて勉強した分野の一つが、建設業許可でした。
建設業許可には、経営業務の管理体制、営業所技術者等、財産的基礎、社会保険への加入など、さまざまな要件があります。申請の際に確認・提出する資料も多く、初めて学んだ当時は、その細かさに驚いたことをよく覚えています。
なぜ、建設業にはこれほど厳格な許可制度が設けられているのだろうか。
当時の私は、建設工事が人の生命や身体、建物の安全性にも関わる仕事であり、不適切な施工が重大な結果につながる可能性があるからだと理解しました。工事の適正な施工と発注者の保護を図るためには、一定の経験、技術力、経営基盤を備えた事業者であることを確認する必要があります。
もちろん、この理解は現在も変わりません。
しかし、国土交通省が公開した改正建設業法の説明資料や動画を見て、もう一つ大切な視点があることに、改めて気づかされました。
建設業は、地域社会を支える「地域の守り手」
建設業は、建物や道路を造るだけの産業ではありません。
道路、橋、上下水道などのインフラを整備し、災害が発生した際には、その復旧にも携わります。地域の雇用を支え、私たちが安心して暮らせる環境を維持する役割も担っています。
国土交通省も、建設業を「インフラ整備の担い手・地域の守り手」と位置づけています。
今回の第三次・担い手3法は、建設業が将来にわたってこの役割を果たし続けられるよう、「担い手確保」「生産性向上」「地域における対応力の強化」を目的として整備されたものです。国土交通省「第三次・担い手3法 本改正の全体像」
許可要件が厳格に定められている理由を、私はこれまで主に「工事の安全性と品質を守るため」と捉えてきました。
今回の資料からは、それに加えて、建設業には地域社会の安心と安全を支える公的な役割があり、その担い手を未来へ残していく必要がある、という考え方が強く伝わってきました。
適正な労務費から、技能者の賃金まで
建設業の担い手を確保するためには、若い世代から働く場所として選ばれ、経験や技能に応じた処遇を受けられる環境が必要です。
そこで重要になるのが、今回の改正建設業法における「適正な労務費の確保」です。
建設工事は、元請、一次下請、二次下請など、複数の事業者が関わって完成させることが少なくありません。実際に技能者を雇用しているのは、専門工事を担う下請事業者である場合も多くあります。
そのため、技能者を雇用する会社だけに賃上げを求めても、賃金の原資となる労務費が契約の各段階で確保されなければ、継続的な処遇改善にはつながりません。
材料費が高騰したとき、その負担が労務費にしわ寄せされることも避けなければなりません。
改正建設業法では、労務費などを内訳明示した見積書の提出を促し、基準となる労務費を著しく下回る見積りや契約を禁止する仕組みが設けられました。注文者だけでなく、受注者側についても原価割れとなる契約が禁止されています。国土交通省「処遇改善」
単に「工事価格を上げましょう」という話ではありません。
必要な労務費を見積りの段階で明らかにし、適正に受注し、それを下請事業者へ支払い、最終的に現場で働く技能者の賃金へつなげていく。一連の流れを整えようとする改正です。
CCUSによって経験と技能を見える形に
その流れの中で重要になるのが、建設キャリアアップシステム、いわゆる「CCUS」です。
CCUSでは、技能者の資格や就業履歴などを蓄積し、経験や能力に応じてレベル1からレベル4までの能力評価を行います。技能や経験を見える形にすることで、それに応じた処遇へつなげることが期待されています。
また、国土交通省は「CCUSレベル別年収」を示し、若い世代が建設業に入った後、経験と技能を積むことでどのようなキャリアを築けるのか、その見通しを持てるようにしています。国土交通省「CCUSレベル別年収とは」
CCUSに登録するだけで、直ちに賃金が上がるわけではありません。
それでも、これまで外部からは分かりにくかった技能者の経験や能力を評価し、適正な賃金を考えるための共通の物差しをつくることには、大きな意味があると思います。
「約束した労務費」を末端まで届けるコミットメント制度
適正な労務費の水準を定めても、それが実際に技能者まで届かなければ、制度の目的は実現しません。
そこで設けられたのが「コミットメント制度」です。
受注者が注文者に対し、適正な賃金や労務費を、雇用する技能者や直接の下請事業者へ支払うことなどを約束し、必要に応じて、注文者が支払いに関する資料の提出を求められる仕組みです。
令和7年12月の建設工事標準請負契約約款の改正では、このための「コミットメント条項」が、契約当事者が任意で利用できる選択条項として新設されました。国土交通省「コミットメント制度について」
適正な労務費を見積書に明示する。
適正な価格で契約する。
下請事業者にも必要な労務費を支払う。
そして、技能者の賃金へつなげる。
「風が吹けば桶屋が儲かる」という言葉がありますが、今回の建設業法改正は、遠く離れた出来事が偶然つながる話ではありません。
労務費の基準、内訳を明示した見積り、CCUSによる能力評価、原価割れ契約の禁止、そしてコミットメント制度まで、それぞれの施策を意識的につなぎ、現場で働く人の処遇改善を実現しようとするものです。
法律が変わるのは、社会が変わっているから
建設業法だけでなく、私たち行政書士に関係する行政書士法も改正されました。
法律は一度つくられたら、いつまでも同じ形で残るものではありません。社会の課題や人々の働き方、技術の進歩などに応じて、制度も少しずつ変わっていきます。
建設業許可を初めて学んでから約6年が経ちました。
当時は、許可要件を一つずつ理解し、必要な資料をそろえ、正確に申請することに精いっぱいでした。それは現在も行政書士として大切にしている基本です。
その一方で、今回の改正について学び、建設業許可制度の先には、建設事業者の皆様が地域の仕事を続け、そこで働く方々が将来に希望を持ち、地域の安全と暮らしが守られていくという大きな目的があることを改めて感じました。
千葉県市原市で建設業許可、決算変更届、経営事項審査などの手続に携わる行政書士として、制度の変更を学び続け、書類を整えるだけではなく、その向こう側にある事業や地域社会にも目を向けながら、これからも少しでもお役に立てればと思います。


